都内の安アパートに住んでいる俺の部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
モニターには若い女性が映っていた。
予定のない来客には対応しないつもりだったが、宗教の勧誘に来たようにも見えなかったので、記憶から抜けているだけで通販の配送かもしれないと思って受話器を取った。
「同じ階に住んでいる者です。」
受話器を通して女性はそう言った。
俺はドアを開けた。
モニターには映っていなかったが、優しそうなお父様も一緒にいた。
最近引っ越してきたとのことで、挨拶をしたいとのことだった。
好意的な挨拶をした。
二人とも安心したようだった。
俺はドアを閉めた。
二人に音が聞こえないように少し時間を空けてから、ドアの鍵をかけた。
これで良かったんだと思う。
二人で同じ心の傷を抱えて、これからもよろしくと言葉を交わして。
でもお互いに心の奥底で、自分のせいでこうなったと思っていて。
だからこそ歩み寄ろうとして、だからこそ歩み寄りきれなかった。
出会ったことは間違いではなかったと今でも思ってる。
どこかで区切りをつけなければならなくて、それが今日だったというだけだった。
どこで歯車が狂ったんだろうかという言葉に、俺は何も返せなかった。
その歯車は最後まで元に戻らなかった。
でも、これで良かったんだと思う。
職務経歴書によく書くMicrosoft Wordのスキルとして
『職務経歴書をWordで作成可能なレベル』
とか書いたら面白いんじゃないかと思った。
自分がこれを実際には書かないっていう辺りが若さの喪失なんだろうなあ。
10年前に発現して5年前に悪化した生活の毒を部分的に取り除き始めた。
これが終われば少なくとも5年前の自分に戻ることができる。
10年以上前の生活はもはや思い出せない。
クリスマスイブの夜に見た夢に初彼女が出てきた。
長年見てない顔だった。
何の変哲もない町で、至って普通の会話をした。
カウンター席で昼食を摂っていたら、隣に座ったソロプレイヤーが手を合わせて「いただきます。」と声に出してから食べ始めた。
とても優しい人なんだろうなと、僕はそう思った。
ビルにあるドアを1つずつノックしていく場面がある。
ノックしたドア越しに、仲間の声やら、ある個人の独白やらが返ってくる。
このうちの後者について、今になってわかったことがある。
当時は雰囲気を楽しむに留まっていたが、
『馬についての質問をしてきた電気屋に道場への加入を促される』
という独白によって一つの確信を得た。
これは夢日記である。
『隣には幼いカート・コバーンがいた。』という独白がある。
ここにおいて、カート・コバーンの幼少期がどのような風体であったかを自分は恐らく知らない。
だが、隣にいる少年がカート・コバーンであることについて、自分は何ら疑いのない確信を持つ。
スターリンは知っている。
豚料理もある。
だから、『スターリンという名前の豚料理屋もある』。
目覚まし時計は、鳴れば誰かに止めてもらえる。