俺、何年か前までアクチュアリー試験の勉強をしてたんだよね。
途中で金融工学に興味が移ったからそこで終わったんだけど。
アクチュアリーを目指そうと思ったきっかけは数学が好きだったからで、アクチュアリーという仕事に興味があったわけじゃなかった。
単に『純粋数学は実学とは結びつかない』みたいな観念への反骨心があったんだよね。
だから、興味の移り変わりでそこから手を引くことになったこと自体は不思議なことじゃなかった。
ただ、その時点で俺はアクチュアリー試験に科目合格すらしてなかったんだよね。
だから、心のどこかで「この選択肢は逃避から生まれたんじゃないか？」っていう懐疑心みたいなものがあった。
行動自体は変える気がなかったから、その懐疑心を振り払うためにアクチュアリーの本を殆ど捨てたりなんかした。
アクチュアリーを目指さなくなったことを周りに話すなんてこともなかった。
誰かからその懐疑心を指摘されるのだけは避けたかった。
その時に捨てた本の1冊を昨日買い直したよ。
今となっては、正確には別の勉強を始めた時点で、当時の行動が逃避から生まれたかどうかなんて関係がないんだよね。
ただ当時の自分がアクチュアリーを目指していて、それを途中でやめて、今は別の勉強をしている。
それ以上の意味もそれ以下の意味もない。
アクチュアリーを目指していた俺の努力が無に帰したわけでもないし、その努力が間違っていたわけでもない。
俺が今まで抱いていた懐疑心も所詮は過去に向けられたもので、今の自分に刃を向けるようなものじゃなかったとようやく気づいた。
多分、俺は今、目を逸らしていた自分自身と少しだけ向き合えたんじゃないかな。
